ウイスキーの起源①

ウイスキーの起源①

 ウイスキーグラスの中で揺れる琥珀色の液体に語りかける。すると、心がとても凪いで、目の前に川の流れる森の静寂を想像することもあるし、夏の雨上がりの小道を天真爛漫な少女が駆けていくのに出会うこともあります。

 ウイスキーは時のロマン。知ることで、普段飲んでいるウイスキーをより身近に感じてもらいたいと僕は願います。

 ウイスキーができるまでには蒸溜して熟成が終わるまでに10
年以上の歳月がかかっています。さらにいうとウイスキーの樽材に使う木は樹齢1000年以上のものも多く、原料である麦芽の香り付けに使うピートという化石燃料は3000年もの歳月をかけて出来上がっています。

 ウイスキーの起源は中世までさかのぼります。錬金術が発達する過程で、偶然生まれたその液体は不老長寿の効果があると信じられ、ラテン語で「Aqua vitae -アクアヴィテ」(生命の水)と呼ばれるようになります。

 やがて、その技術はヨーロッパの北方に伝わり、その地で飲まれていたビールを蒸留して作られるようになり、スコットランドとアイルランドの古語であるゲール語で「Uisge beatha -ウィシュゲ・ベーハ」(生命の水)と呼ばれ、のちに「WHISKY -ウイスキー」という言葉へと変化しました。

 初期のウイスキーは熟成を行わない無色透明で、味も香りも荒々しいものでした。18世紀に入って、イングランドはスコットランドを併合し、政府はウイスキーに対する関税を一気に引き上げます。それまでウイスキーを造っていたスコットランドの農民は、イングランド政府に支払う酒税を免れるために、密造したウイスキーをシェリーの空き樽に入れ、山の奥に隠したのです。

 するとウイスキーは、樽の中で熟成され、琥珀色でまろやかな味わいと華やかな香りをもったのです。

執筆:湯浅雄大
   飛騨高山蒸溜所 アンバサダー